私は風邪で寝こんでいた。昨日、久しぶりの仕事に出かけて、疲れてしまったのかも知れない。いくつもの悪夢にうなされた。
仕事で誤って、未完成の計画書を発表してしまい大失態を演じた。向こう見ずなタクシー運転手と骨ばった女に命を狙われた。運転手に金を渡す時、助手席に女のイヤリングが落ちているのを見て、おれは陥れられたと気がついた。が、遅かった。

 妻が昼休憩に、自宅に寄って気にかけてくれた。うつすといけないので、食事を一緒にとるのはやめた。寝室のドアを閉めて、私は寝たまま食器の音を聞いた。妻はコンビニ弁当を食べて、職場に戻った。

 夕方に、うどんでも作ろうと台所へフラフラと起き上がった。ガスコンロには、ブリ大根の鍋があった。週末からそこにある。スーパーで、ブリの切り落としが安くなっていたので、多めに作って作り置きにした。
平日は自炊をしないので、栄養が偏りがちだ。特に、妻が気にしている。私は帰りが遅いので、外食が多い。妻もコンビニ弁当や惣菜で食事を済ませることが多い。

 私は、腹をたてながらブリ大根を食べた。良かれと思って、作り置きにしたのに、妻は食べてくれない。あてつけのつもりで、鍋を空にするまで食べた。
私の作ったブリ大根は、美味しくないので誰も食べたがらない。認めたくないのだが、事実だ。
妻は、ブリ大根を食べたくないから、昼にコンビニ弁当を買った。妻だけでない。私も、ブリ大根の事は頭になかった。レシピを読みながら、時間をかけて料理したのに、労に見合わない。

 私が腹をたてる筋合いはなく、一番腹だたしいのはブリの奴だ。ブツ切りにされた上、味について文句がつく。嫌なら食わなきゃいいんだ。第一、問題はブリ自体でなく、下手くそな味つけだ。
すまない気持ちでいっぱいだ。